【営業責任者必見】なぜあなたの部下はCRMツールを入力しないのか

要約SUMMARY
  • SFA / CRMは多くの企業で定着しているものの、顧客管理以上の活用からは程遠い状況。
  • 営業担当者がSFA・CRMツールを入力してくれない原因として、「ツールを使いこなせない」「既存の業務フローを崩したくない」「業務の負担を増やしたくない」の3つが挙げられる。
  • SFAやCRMツール発祥の地であるアメリカでは、「顧客エンゲージメント」「セールスイネーブルメント」「Sales Ops」「Sales Enablement Technology」への取り組みが進んでいる。

日本国内のSFA / CRMマーケットは右肩上がりで成長

アメリカをはじめとする海外諸国では、管理・最適化のための営業支援システムであるSFA / CRMが活用されており、日本企業の間でも導入が進んでいます。

ミック経済研究所「ビジネス・アナリティクス市場展望2019年度版」のデータによると、SFA / CRM市場は右肩上がりで成長し、2020年には3,000億円規模に達するとされています。

SFA / CRMは社内に定着しているものの、活用からは程遠い状況

日本企業の間でもSFA / CRM の活用が進んでいる一方で、顧客管理以上の活用はなされていないのが現状です。新規顧客の増加や既存顧客の拡大といった売上につながるようなシステムのポテンシャルを十分に活用しきれていません。

CRMの活用に苦労している企業が多い理由として、データ入力のタイミングや頻度・質を向上させることの難しさが挙げられます。

顧客データが正しく入力されないと、顧客データの分析が難しくなり、本来の機能が役に立たないという問題が発生してしまいます。

なぜ営業担当者がSFA・CRMツールを入力してくれないのか

入力したいけれど、SFA・CRM を使いこなせない

A社では、営業担当者が入力項目の多さから入力が億劫になってしまっていることが、入力の妨げとなっていました。またツールのUI・UXに慣れておらず、入力の仕方がわからないといった声もありました。

既存の業務フローを崩したくない

B社ではCRMツールを導入したところ、営業担当者から導入について意見があがりました。慣れているスプレッドシートを使った顧客管理から乗り換えることは、他の業務に使っていた時間をツールの使い方を学び慣れるために使う必要がある、新しいツールの導入によって混乱が生じ、業務が滞るという懸念点がありました。

また、こういった意見の背景には、従来使っていたスプレッドシートでの管理方法に慣れるまでに掛けた努力を無駄にしたくないという心理(サンクコスト)があることも推測されます。

業務の負担を増やしたくない

C社ではCRMツールの導入に対して、業務負担が増えるので営業担当者は入力できないという意見がありました。営業担当者は顧客訪問やアポイント取得のための架電、見積もりの送付など顧客獲得のための業務を大量に抱えています。

C社の営業担当者は、SFA・CRMツールの入力と個人の売上とは因果関係がないと考えています。そのため、SFA・CRMツールを入力する暇があったら1人でも多くの顧客と会いたい、顧客獲得のための電話を1件でも多く掛けたいという気持ちが、CRMツールの導入を阻んでいます。

営業担当者にSFA・CRMツールを入力してもらえるようにするためには?

営業担当者が入力したいのにできない場合

営業担当者が入力したいと思っていても入力できていないA社のような場合、技術やノウハウ面でのハードルが高いことが原因になっていると言えます。

SFA・CRM ツールの導入目的から必要な情報や機能の要件定義を行う

A社の営業担当者からは、入力項目が多すぎて入力が億劫だという意見がありました。この課題を解決するためには、まずA社がなぜSFA・CRMツールを導入したいのかを明確にする必要があります。

その上で、その目的を達成するのに必要な機能や分析に必要な顧客データを要件定義します。データが多ければその分さまざまな分析が可能ですが、一方で営業担当者の入力の手間や心理的なハードルが上がるため、目標達成に必要な最低限のデータを定義することが大切です。

例えばA社では営業効率を測るSales Velocityを分析したいという目的があり、平均顧客単価や営業案件数、平均商談時間のデータが必要です。そのために営業担当者には、「初めて顧客とコンタクトした日付」「制約or失注したときの日付」の記録を入力してもらうことにしました。

SFA・CRM ツールでワークフローを組み自動化する

ほとんどのSFA・CRMツールには、ワークフローを構築して自動で処理が実行できる機能が備わっています。あらかじめ設定した条件が満たされたときにツールが自動で処理します。このような機能を活用することで、営業担当者が手入力する負担が軽減され、また抜け漏れなどの人為的なミスを防ぐことができます。

SFA・CRM ツールのオンボーディングを充実させる

A社の営業担当者の中には、ツールのUI・UXに慣れておらず、入力の仕方がわからないという声もありました。そのため、A社では営業担当者がツールを使いこなせるよう、教育・研修の時間を設けました。

HubSpotやSalesforceを利用する場合、無料でツールの使い方を学べる講座を受講できますので、ぜひ活用しましょう。

営業担当者がSFA・CRMツールに入力したくない場合

B社やC社のように、現場の営業担当者がSFA・CRMツールを入力したくないと考える背景には、ツールの導入が営業担当者にとってメリットがあると感じられていないことがあります。

ペナルティやインセンティブを導入することで半強制的に定着させることも可能ですが、それは営業担当者との溝が深まりかねません。本質的に定着させる方法として以下の2つが挙げられます。

SFA・CRM ツールの導入目的を継続的に伝える

B社とC社では営業担当者に向けてツールの導入目的と具体的な効果を説明する時間を設けました。

SFA・CRM ツールは単なる顧客情報を管理ツールとして理解されがちですが、入力された顧客データを分析することで、営業担当者がより効果的に営業活動に取り組めるように改善していくツールだということを理解してもらいました。

SFA・CRM ツールの活用が営業担当者にとってもメリットがあることを理解してもらう

B社とC社では、導入の目的を共有するのと同時に、それが営業担当者にとっても有益なものであるということを説明しました。

SFA・CRM ツール内の顧客データを活用できれば、顧客獲得のプロセスのボトルネックとなっている部分を把握でき、成約率の向上に繋げることができます。

SFA・CRM ツールを導入することで、約30%も生産性が向上するというデータもあります。また、顧客データを一元化することで、取引・問い合わせ・顧客からの指摘を即座に確

認でき、結果として業務の効率化にもつながります。

このように、SFA・CRM ツールは顧客のデータ管理だけでなく、営業の業務改善・効率化を目指すツールであり、営業担当者にとってもメリットがあるものだと理解してもらうことが大切です。そうすることで、納得感を持ってデータの入力作業に取り組んでもらいやすくなります。

成功事例

以下では代表的なCRMツールであるSalesforceを導入した2社の成功事例を紹介します。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の例

背景・取り組み

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社は、長年運用して老朽化したシステムをSalesforceを活用して刷新しました。

具体的には、2013 年に更改したハードウェアやOSのサポート切れが迫ってきたタイミングで、システム基盤の根本的な刷新に着手しました。その結果、オンプレミス環境で運用していたSQUETの基盤から、Salesforceを採用したクラウドへ移行しました。

システム構成としては、Experience Cloudをベースに会員向けポータルを構築し、そこにService Cloudを組み合わせることでSQUETのサービス提供基盤を整備しました。この新システムは2020年6月にリリースされました。

取り組みの成果

結果として、運用・監視にかかわるコスト削減と、事務の一部ペーパレス化を実現しました。

紙ベースによる申請で行っていた顧客の登録情報等を、顧客自身がSQUETのサイト上で行うことが可能となり、顧客の利便性が向上しました。

申請受理後の関連書類の発行や郵送が不要になるなど、社内の事務作業効率化が実現しています。

参考:MUFGならではの高度な支援をプラットフォーム化することで全社的なデジタルマーケティングも視野に

https://www.salesforce.com/jp/customer-success-stories/murc/

三菱地所リアルエステートサービス株式会社

背景・取り組み

B2B専業の不動産会社として先進的なデジタル環境を導入し、顧客へのサービス提供の質やスピードを高めるための取り組みとして、営業改革とCRM/SFAの導入に着手しました。はじめはForce.comをプラットフォームとして導入し、基本機能にCRM/SFA機能をカスタマイズで開発・導入しました。

情報システム部門は運用と保守のみを担当し、事業部主導で活用を推進しました。社内でのCRM/SFAの定着には時間がかかりました。

顧客情報の共有は徐々に組織に浸透し、複数の営業担当者が1社の顧客情報を円滑に共有することや、多様なニーズ・課題を持つ顧客に対して関連部署がかかわる際の情報共有の徹底を図ることでクロスセルやアップセルに繋がり、お客様の満足度が上がる等一定の成果を得

ることができました。

一方で以下のような課題も生まれました。

  • 全社的な推進組織が存在せず、事業部主導による部分的な改修などにより、入力されたデータを全社的に活用しにくい状況が見られるようになった。
  • ある事業部はCRM/SFAを使いこなしていたが、別の事業部では必要最低限のデータのみを登録して良しとするなど、活用の深さにばらつきが見られた。

これらの課題に対して、同社は2019 年にデジタル戦略部を立ち上げ、営業改革を加速させる取り組みに着手しました。

まずは生産性の向上を目的に、事業部ごとに個別導入されていたシステムを棚卸しし、その上で情報プラットフォームに何を使うか検討し、一気に切り替えようと考えました。

既存システムをゼロベースで見直すことになったため、使用していたForce.com上のCRM/SFAも見直しの対象になり、検討した結果Sales Cloudの採用を決めました。

取り組みの成果

CRM/SFAとしては共通のデータモデルを全事業部で活用できており、マーケティング部門と管理部門でも活用を推進することで、集客から商談のクローズ、物件の管理まで、一気通貫で情報が連動しています。

これにより取引先件数は倍増し、取り扱い物件数は1.5倍になりました。さらにWeb経由での商談獲得数も倍増し、営業活動の効率化を促進できました。

SalesforceとG-Suiteを標準APIで連携させることで、会議に必要なデータはすべてSalesforceからアクセスでき、紙資料のプリントアウトは廃止になりました。

蓄積したデータは、分析して次のビジネスに生かされます。営業現場では標準の分析機能が利用されており、今後はAI活用も視野に入れています。

参考:Salesforceですべての営業情報を管理し、コンサルティング営業の強化とワンストップサービスを目指す

https://www.salesforce.com/jp/customer-success-stories/mecyes/

SFA・CRMツール発祥の地アメリカでの取り組みは?

SFAやCRMツール発祥の地であるアメリカでは、主に以下の4つ、「顧客エンゲージメント」「セールスイネーブルメント」「Sales Ops」「Sales Enablement Technology」への取り組みが進んでいます。

顧客エンゲージメント

概要

顧客エンゲージメントという言葉の一般的な定義は定まっていませんが、顧客エンゲージメントを重視する企業では、一貫して顧客との深い関係性、友好的なつながり、親密さという意味合いで定義されています。

親密さというと、顧客が企業やサービスに対して持つ愛着を表すロイヤリティと似たニュアンスで捉えられますが、ロイヤリティと顧客エンゲージメントでは測定方法が異なります。

ロイヤリティはアンケートなどにより算出されるNPSの指標によって顧客の「感情」を測定するのに対して、顧客エンゲージメントは顧客の感情ではなく、顧客と企業の親密さや感情の動きによって生じる「行動」に基づいて評価されます。

目的

顧客エンゲージメントは特にサブスクリプションビジネスにおいて重要です。サブスクリプションビジネスは、一度受注してもサービスを解約(チャーン)されてしまうリスクがあるため、顧客に総額いくら支払ってもらえるのかが確定していません。

またサブスクリプションビジネスに取り組む際の営業組織体制として”The Model”という分業方式の導入が増えています。しかしこのThe Modelを導入することで部門同士の対立が弊害となることがあります。

サブスクリプションビジネスにおいて解約されるリスクを減らし、また組織分断を防ぐためにも、顧客のカスタマージャーニーを組織全体で理解し、顧客体験・顧客満足度の向上を目指してアプローチを進めることが顧客エンゲージメントの目的です。

取り組み事例

HubSpotでは、顧客が解約(チャーン)する原因の理解を重要視していました。CHI(Customer Happiness Index)というスコアを算出して、セグメントごとの顧客エンゲージメントの度合いを把握するシステムを開発しました。

この数値を利用して、解約しそうな顧客の特定と、その顧客に対するサポートを行いました。またこの指標を用いて製品のどの機能を顧客が使用すれば解約を避けられるのかを把握しました。

顧客の行動を独自に指標化し、顧客に提供するべき価値を明確にすることで、顧客体験の向上に成功した良い例といえるでしょう。

顧客エンゲージメントについて、より詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

顧客エンゲージメントとは?最先端営業組織の重要概念

セールス・イネーブルメント

概要

セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)とは、「営業組織・担当者が会社が期待する動きができる状態にし続けること」を意味します。営業活動を改善するための一連の取り組みを指します。

役割

インターネットが人々の購買方法を大きく変えたことで、企業にとってインバウンドマーケティングが不可欠になり、セールスには顧客に寄り添った価値提供が求められるようになりました。

セールス・イネーブルメントとして、セールスのトレーニング、コーチング、ツールの活用方法、アプローチ方法などの施策をトータルで設計することで、属人化されがちな営業担当者のノウハウを共有することができます。さまざまなビジネスの活動が数値化され、ボトルネックの改善につながります。

取組み事例

日本でもセールス・イネーブルメントを取り入れている企業が増えてきています。例えばクラウド名刺サービスを提供しているSansanでは、2018年4月よりセールス・イネーブルメントグループが立ち上げられています。

このグループでは、経営企画を担当する事業企画部の一部として、開発やマーケティング、インサーイドセールス、人事、カスタマーサクセスと横断的に連携しながら、営業組織を強くしていくことをミッションとしています。

Sales Ops

概要

Sales Ops・Marketing Opsとは、セールス・マーケティングのプロセスやテクノロジー基盤を整備し、各活動の成果を効率的かつ効果的に高める役割を担います。

役割

近年では、セールス業務を効率化し、効果的に行うために、顧客関係管理(CRM)やMA、営業支援システム(SFA)といったツールを用いたり、顧客情報を収集分析するなど、ITを駆使したデータの一元化が主流となっています。

しかしながら、便利なツールを導入したからといってセールス・マーケティングが高度化するわけではなく、正しい運用が重要です。業務プロセスやテクノロジー基盤を組織に根付かせるためにSales Ops・Marketing Opsが導入されます。

より詳しいSales Ops・Marketing Opsについての歴史、具体的な役割については、こちらの資料で説明しています。

現代BtoBビジネスの参謀 Sales Ops・Marketing Ops | Accel by Magic Moment

Sales Enablement Technology

概要

データの収集・分析・可視化やそれに基づいた売上予測、アクションの提案を行うテクノロジーをSales Enablement Technology(SET)と呼びます。

役割

顧客データを管理するシステムとしてCRMを導入している企業が増えています。Oracle社が実施した「SFA /CRM に関する活用実態調査 2018年版」によると、システムを導入した企業の8割以上が自社内に定着していると回答しています。その一方で成果にはほとんど寄与していないことがわかります。

* Oracle社 SFA /CRM に関する活用実態調査2018年版

CRMシステムが成果に寄与しない原因として、組織の分断、データの分断、データの抜け・漏れの3つが挙げられます。

このような課題に対処するために近年台頭してきたのがSales Engagement Technology (SET) や Sales Management Technology (SMT)です。これまで人の手によって時間をかけてデータの入力・加工してきた工程が、より正確かつ高いレベルで実現できるようになります。

取組み事例

欧米では、FacebookやMicrosoft、Adobeなどの大企業でもMA/CRMに加えてSETツールが活用されています。

CRMおよびデータ活用の実態について、またSETなど最先端テクノロジーの概要についてこちらの記事で詳しく解説しております。

ビジネスの行方を左右する営業データの活用

まとめ

  • 日本国内のSFA / CRMマーケットは右肩上がりで成長し、多くの企業で定着しているものの、顧客管理以上の活用からは程遠い状況。
  • 営業担当者がSFA・CRMツールを入力してくれない原因として、「ツールを使いこなせない」「既存の業務フローを崩したくない」「業務の負担を増やしたくない」の3つが挙げられる。
  • 営業担当者が入力したいのにできない場合は、ツールの導入目的から必要な情報や機能の要件を定義する、ワークフローを組み自動化する、ツールの使い方について教育・研修を行うなどの対策を行う。
  • 営業担当者が入力したくない場合には、導入目的を継続的に伝えること、そして営業担当者にとってもメリットがあることを理解してもらうことが重要。
  • SFAやCRMツール発祥の地であるアメリカでは、「顧客エンゲージメント」「セールスイネーブルメント」「Sales Ops」「Sales Enablement Technology」への取り組みが進んでいる。