投資家が重視するSaaSスタートアップの評価指標とは

執筆者

投資家がスタートアップに出資を決める際に基準としているものは何でしょうか? ビジョンや情熱よりも重要視されるのは、事業の健全度や成長性を測るための適切なメトリクスです。またこれらは資金調達だけでなく、経営者が自身の事業を成長させていく上でも非常に重要な指標です。この記事ではSaaSスタートアップが見るべきメトリクスとその概念について解説していきます。

(Net) MRR   

(Net)MRRはMonthly Recurring revenueの略称で、月間経常収入のことを指します。MRRは、新規課金ユーザー・より高額なパッケージに乗り換えたユーザー・既存課金ユーザーのチャーン・より低額パッケージへの乗り換えユーザーそれぞれを合算して算出する実質の売上で、顧客との継続的な契約を結ぶビジネスモデルであるSaaS企業(月額・従量課金制でソフトウェアを提供している企業)において適用されるメトリクスです。MRRにおいては、アップセルとクロスセルを狙い、いかにしてチャーンとダウングレードを防ぐかか重要となります。

MRRは以下の計算式で求められます。

(Net) MRR=前月のMRR+New MRR+Expansion MRR+Downgraded MRR+Churn MRR

New MRR

New MRRは新規課金ユーザーから得られるMRRです。

[例] : 3人の新規顧客が10万円/月のプランに加入した際のNew MRRは30万です

Expansion MRR

Expansion MRRは既存ユーザーがより高額なプランに変更した時(アップセル)や、他のサービスに加入した時(クロスセル)に追加で計上されるMRRです。

[例]顧客Aが10万円/月を20万/月のプランに変更し、顧客Bが15万円/月を20万/月に変更した月のExpansion MRRは15万円です。

Downgraded MRR

Downgraded MRRは既存ユーザーがより低額なプランに変更する際に計上されるMRR損失です。

[例]顧客Aが20万円/月を15万/月のプランに変更し、顧客Bが15万円/月を10万/月に変更した月のExpansion MRRは10万円です。

Churn MRR

Churn MRRは顧客のサービス解約によって生じるMRR損失です。

[例] : 顧客A,B,Cが10万円/月のサービスを解約し、顧客D,Eが20万円/月のプランから10万円/月のプランに変更した際のChurn MRRは50万円になります。

(Net) MRR growth rate

SaaS企業が見るべきメトリクスの中でもかなり重要なものの一つで、MRRの月次成長率を表します。この指標を使うことにより、会社の成長速度や事業の健全度を明らかにすることができます。

MRR growth rateは以下の計算式で求められます。

Churn rate

Churnとは顧客の解約を意味します。Churn rateは解約率を指し、顧客ベースであるCustomer churn rateと金額ベースであるMRR churn rate(gross&net)があります。いずれもSaaSビジネスの成長可否を考える上で見落とすことができないメトリクスです。

Customer churn rate(顧客ベースのチャーンレート)

MRR churn rate(金額ベースの解約率)

金額ベースであるMRR churn rateには、さらにGross MRR churn rateとNet MRR churn rateの二種類に分けられ、チャーン状況を正確に把握するためにはどちらも理解しておく必要があります。

Gross MRR churn rate

その月に失ったMRRのチャーン比率。

Net MRR churn rate

その月に失ったMRRからExpansion MRR(アップセルやクロスセルによって増加したMRR)を取り除いた実質のチャーン比率。

Negative MRR Churn

Negative MRR ChurnとはNet MRR churn rateがマイナスになることで、アップセルやクロスセルによって増加したMRRが、解約やダウンセルによって減少したMRRを上回るという意味です。ネガティブチャーンを達成することは事業の成長を勢いづける上では欠かせません。

Unit Economics

Unit Economics(ユニットエコノミクス)とは日本語で”1単位あたりの経済”、SaaSビジネスにおいては”顧客1単位における獲得コストと得られる収益のバランス”を表します。ビジネスモデルが健全に機能し、今後成長するポテンシャルがあるのか適切に評価できるフレームワークです。

Unit Economicsは以下の計算式から求められます。

スタートアップでは、ユニットエコノミクスの理想値は3以上、つまりLTV:CAC=3:1が健全な基準とされています。

LTV(顧客生涯価値)

LTVとは、一人の顧客から生涯に渡って得られるキャッシュのことです。簡単な例で言えば、一人の顧客が10万円/月のプランに加入し、3か月の利用後に解約した場合のLTVは30万円になります。LTVは以下の計算式から求められます。    

  • ARPA(Average Revenue Per Account)=顧客一人当たりの月間売上。
  • Gross Margin=売上総利益率。売上高総利益÷売上高。
  • Customer Churn rate=顧客/シート数ベースのチャーンレート(今月解約した顧客数÷先月の顧客数)

CAC(顧客獲得コスト)

CACは顧客獲得単価のことで、一人の顧客を獲得する際にかかる費用のことです。自然流入の顧客コストであるOrganic CACと費用支出によって獲得する顧客獲得コストであるPaid CAC、そしてそれらを組み合わせたBlended CACがあります。一般的なCACはBlended CACを指す場合が多いですが、顧客獲得チャネルや活動のROIを厳密に考慮したい場合はPaid CACが重視されることがあります。。

CACは以下の計算式から求められます。

Paid CAC=Total acquisition cost(有料チャネルにかけた全コスト)# of New customer acquired through paid marketing(有料チャネルから得た新規顧客数)

LTVとCACに関しては、マーケティングの観点からこちらの記事でも詳しく解説しています。

https://stg.magicmoment.jp/blog/marketing-metrics/

CAC Pay back period(顧客獲得コスト回収期間)

顧客の獲得にかけた費用を利益で回収するのにかかる期間です。期間が短ければ短いほど、マーケティング及びセールスの顧客獲得戦略の費用対効果は高いと言えます。健全なキャッシュフローを目指す上では欠かせないメトリクスです。

CAC payback periodは以下の計算式で求められます。

健全なCAC Paybck periodの目安は6〜12ヶ月だとされています。

まとめ

MRR、Churn、Unit Economics、CAC Payback periodなど、SaaSビジネスを推進していく上で欠かせない基本的なメトリクスを理解し、まずは健全とされる水準を達成することが資金調達・経営を成功させる一番の近道です。不確かな勢いで乗り切るのではなく、数字という合理的な根拠を元に自社の価値を展開しましょう。

事業を維持・拡大するためには、上記で説明したメトリクスに加え、定点観測するべき指標があります。こちらでサブスクリプションビジネスの成功に欠かせないKPI10選をまとめていますので、是非この機会にご覧ください。

サブスクリプションビジネス経営者が見るべきKPI10選